AIチャットボットは驚くほど便利ですが、同時に「危険なほど自信満々」でもあります。
もっともらしい顔をして嘘をつくAIに、仕事や判断を惑わされた経験はないでしょうか?
謎レシピの分量から架空の用語解説まで、AIは息をするように嘘を混ぜ込むことがあります。だからこそ、AIを使いこなすための最大のリスク管理は「AIを信頼しすぎないこと」に尽きます。
しかし、毎回ファクトチェックをするのは骨が折れます。そこで有効なのが、海外のAIコミュニティで実用性が高いと評価されている「Glitch Prompt(グリッチプロンプト)」という手法です。
たった数秒でAIに「一時停止」と「自己監査」を強制し、ミスを自ら修正させる指令です。この手法がなぜ機能するのかというロジックと、今すぐ使える「グリッチプロンプト」を具体的に紹介します。
グリッチプロンプトとは? AIを「完了モード」から「修正モード」へ
「グリッチプロンプト」とは、一言で言えばAIに対する自己監査コマンドです。
通常、ChatGPTやGeminiなどのAIは、ユーザーの質問に対して「できるだけスムーズに回答を完了させること(Completion mode)」を優先して動いています。
正確性よりも「会話として成立しているか」「文脈が繋がっているか」が重視され、結果として、答えが分からない場合でも、確率的に「ありそうな言葉」を並べて埋め合わせようとします。これがハルシネーション(もっともらしい嘘)の正体です。
グリッチプロンプトは、この「完了モード」で走っているAIに対し、強制的に「待った」をかけ、「修正モード(Correction mode)」に切り替えさせる役割を果たします。
「答えを作る」ことではなく、「自分の答えを疑う」ことにリソースを使わせる。この切り替えが、モデル自体の性能を変えずに回答精度を引き上げる鍵となります。
ただし、グリッチプロンプトでも、完全にハルシネーションが消えるわけではありません。

コピペで使えるグリッチプロンプト
実際に、日常的に使用しているプロンプトを紹介します。
AIから返ってきた回答が「怪しいな」と思ったとき、あるいは「重要な判断」をする前に、追加の指示として以下のテキストを送信してください。
基本の型|汎用版
最もスタンダードで、あらゆる場面で使える形式です。
AIに対して「不具合(グリッチ)があるかもしれない」と警告することで、漫然とした回答生成を中断させます。
一時停止してください。今の回答には「グリッチ(不具合)」がある可能性があります。
直前の回答を再確認し、間違い、手順の抜け漏れ、誤った前提、あるいは事実と異なる詳細が含まれていないか精査してください。
その上で、より正確な内容で回答を書き直してください。また、その回答に対する「自信度(1〜10)」を最後に付記してください。
短縮版|チャット中の即レス用
チャットのラリーが続いているときや、スマートフォンのアプリから手短に確認したいときは、以下の短縮版が便利です。
この短い指示だけでも、AIは「今の回答をそのまま信じてはいけないのだな」と理解し、一度立ち止まって推論プロセスを再実行します。
「一時停止」させるだけで回答が賢くなるのか?
なぜ「一時停止」や「グリッチ」という言葉を使うだけで、AIの回答が変わるのでしょうか? これには、大規模言語モデル(LLM)特有の性質が関係しています。
多くのチャットボットは、速く、流暢で、役に立つように設計されています。「分かりません」と答えるよりも、文脈から推測して答えを出すように調整されているのです。
グリッチプロンプトを使うと、以下のプロセスが強制的に発生します。
- 生成の停止:惰性でのテキスト生成を止めます。
- 論理の再評価:「新しい回答を作る」のではなく「既存の回答を評価する」タスクに切り替わります。
- 不確実性の容認:自信度(Confidence Rating)を求められることで、AIは「100%正しいわけではない」と認めやすくなります。
- 構造の改善:書き直しを命じられることで、より論理的で整理された構成になります。
AIに対して「作業をこなす」だけでなく、「自分の仕事を見直す(検算する)」よう指示を出しているのです。

状況別・カスタマイズされたグリッチプロンプト集
基本の型に慣れてきたら、利用シーンに合わせてプロンプトを微調整することで、さらに精度の高い結果を得ることができます。
実際に使用している「特化型グリッチプロンプト」を4つ紹介します。
1. ショッピング・製品選び|比較検討
AIにおすすめの商品を聞くと、特定のブランドに偏ったり、最新の価格変動を無視したりすることがあります。
一時停止。グリッチチェックを実行してください。より良い選択肢を見逃している可能性があります。
推奨内容を見直し、3つの代替案を含めて再提案してください。その際、それぞれの「トレードオフ(妥協点)」と、あなたが「最も自信がない部分」について教えてください。
2. ファクトチェック・情報収集|真偽検証
統計データや歴史的事実など、正確性が命の場面で使用します。
グリッチチェック:直前の回答に含まれるすべての「事実の主張」をリストアップし、それぞれに[検証済み / 未検証 / 推測]のラベルを付けてください。
その後、検証済みの情報のみを使用して回答を書き直してください。推測が含まれる場合は、その旨を明記してください。
3. トラブルシューティング・技術的な解決
PCの不具合やコードのエラーなど、AIの解決策が的外れな場合に有効です。
グリッチチェック:あなたは間違った問題を解決しようとしているかもしれません。
解決策を提示する前に、まず状況を正確に診断するための質問を私に5つ投げかけてください。その回答を踏まえて、修正案を提示してください。
4. 文章作成・推敲|論理チェック
自分が書いた文章や、AIに書かせたドラフトの品質を上げたいときに使います。
このドラフトをグリッチチェックしてください:論理の飛躍、曖昧な表現、繰り返し、文脈の欠如を見つけてください。
私のトーンを維持しつつ、より簡潔な文章に書き直してください。
このプロンプトを使うべき「4つのタイミング」
すべての会話でグリッチプロンプトを使う必要はありません。「今日の天気は?」や「カレーの作り方」といった日常的な問いであれば、通常モードで十分です。
しかし、以下の4つのタイミングでは、必ずこのプロンプトを発動させることをおすすめします。
1. 回答が「自信満々すぎる」と感じたとき
AIの回答があまりにも完璧で、淀みなく生成されたときこそ警戒が必要です。
これは「黄色信号」と捉えましょう。「念のため、もう一度確認して」という意味でグリッチプロンプトを使います。
多くの場合、AIは「申し訳ありません、先ほどの説明には誤りがありました」と訂正してきます。
2. お金を使う判断をするとき
旅行の予約、ガジェットの購入、サブスクリプションの契約など、財布を開く前の相談相手としてAIを使う場合です。
AIは古い価格データを参照していたり、隠れたコストを無視していたりすることがあります。購入ボタンを押す前に、必ずグリッチチェックを行います。
3. 技術的なトラブルが解決しないとき
「言われた通りのコマンドを打ったのにエラーが消えない」という経験はありませんか?
AIは特定の環境(OSのバージョンなど)を勝手に仮定して回答していることがあります。診断手順をスキップさせないために、プロンプトで釘を刺します。
4. 失敗できない重要なドキュメント作成時
仕事のメール、企画書、エントリーシートなど、誤字や論理破綻が許されない場面です。
ここではAIをライターとしてだけでなく、「厳しい編集者」として機能させるためにグリッチプロンプトを活用します。
注意点|ハルシネーションは「ゼロ」にはならない
最後に重要な注意点をお伝えします。
グリッチプロンプトは強力な対応方法ですが、AIのハルシネーション(幻覚)を完全に消滅させられません。
AIモデルの根本的な仕組み上、どうしても確率的な誤りは発生し得ます。特に、以下のような情報は、AIが自己修正モードに入ったとしても間違える可能性があります。
- リアルタイム性の高いニュースや価格情報
- 非常に専門的でニッチな法律・医療アドバイス
- 計算が必要な複雑な数学的処理
「グリッチプロンプトを通したから、この情報は100%正しい」と盲信するのは危険です。
AIを判断者として利用すること自体が誤りです。
最終的な判断や責任は、必ず人間が持つようにしてください。特に医療や法律、金融に関する重大な決断は、必ず専門家の一次情報を確認することをおすすめします。
まとめ|AIを「回答者」ではなく「思考パートナー」にする
AIチャットボットを使う上で最も大きなリスクは、AIの能力不足ではなく、ユーザーが「AIを信じすぎてしまうこと」にあります。
グリッチプロンプトの真価は、AIの回答を修正すること以上に、私たちユーザー自身が「AIの回答を一度疑う」という習慣を身につけられる点にあります。
「一時停止。チェックして」
この一言を挟むだけで、AIは単なる「検索代行ツール」から、一緒に考え、間違いを指摘し合える「思考パートナー」へと進化します。
もし、ChatGPTやGemini、Claudeを日常的に使っているのであれば、上記のプロンプトを使ってみてください。
思っている以上に、AIは「気づいていない間違い」を抱えているはずです。
次のステップ:まずは手元のChatGPTで、過去に「怪しいな」と感じた質問をもう一度投げかけ、その直後に「グリッチプロンプト」を試してみてください。その変化を体感するところから始めましょう。