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コラム

創造性は技術で再現できる|エンジニアも使える!ヤング式「アイデアのつくり方」完全ガイド

ジェームズ・ウェブ・ヤング(James Webb Young)は、20世紀前半に活躍したアメリカの広告界の巨匠です。

彼は1940年に小冊子『アイデアのつくり方』(原題:A Technique for Producing Ideas)を出版し、創造性を「再現できるプロセス」として体系化しました。

ヤングは「ひらめきは偶然ではなく、技術だ」と主張します。

広告業界だけでなく、エンジニア、デザイナー、プランナーなど、あらゆる「アイデアを仕事にする人」に通じる普遍原理を提示した人物です。

なぜ1940年の発想法が今も通用するのか

デジタル時代になっても、創造の本質は変わっていません。

ChatGPTのようなAIツールも、既存の知識や情報を再構成して新しい組み合わせを作っています。

まさにヤングの定義する「新しい組み合わせがアイデアである」という考え方そのものです。

この本は、単なる発想術ではなく「人間の創造プロセスを理解する取扱説明書」なのです。

ヤング式「アイデア生成5ステップ」要約

ヤングは、アイデアを生み出すプロセスを次の5つのステップに分解しました。

「ジェームス・W・ヤング アイデア生成5ステップ 」

情報収集 → 組み合わせ → 休息 → ひらめき → 実証

ステップ1 情報を集める(Specific & General)

ヤングは「アイデアは素材からしか生まれない」と説きます。

ここでいう素材とは、情報・知識・観察です。

Specific information(具体情報):今取り組む課題に関する詳細な情報。

→ システムエンジニアで言えば「要件定義」や「現行システムの分析」にあたります。

General information(一般情報):課題を超えた幅広い知識。

→ 業界動向、心理学、アート、社会トレンドなど、好奇心の幅が創造の源になります。

「知識のカレイドスコープを回すほど、無限の組み合わせが見えてくる。」 — ジェームス・W・ヤング

ステップ2 情報を組み合わせる(熟考・分析)

集めた素材を「かき混ぜる」段階です。

ヤングはこの段階を「心の錬金術」と呼びます。

  • 素材同士を関連づけ、新しい関係を見つける
  • 無関係に見える情報の「橋渡し」をする
  • 仮説やパターンをいくつも試してみる

このとき重要なのは、「論理的」よりも「構造的」な思考。

システムズエンジニアリングでは、これを「モジュール設計」「依存関係の最適化」と呼ぶかもしれません。

つまり、構造を組み替えることが創造なのです。

ステップ3 無意識に委ねる(インキュベーション)

次のフェーズでは、意識的な努力を一度手放すことが重要です。

ヤングはこう述べています。

「頭を休ませることが、次のひらめきを呼び込む最短ルートである。」

この段階では、散歩やシャワー、睡眠など「思考しない時間」を設ける。

脳の無意識が情報を再構成し、自然に組み合わせの「最適解」を見つけてくれます。

ステップ4 アイデアが「ひらめく」瞬間をつかむ

ある瞬間、ふと答えが「降りてくる」。

ヤングはこれを「The Idea appears out of nowhere(どこからともなく現れる)」と表現しました。

この「ひらめき」は偶然ではなく、前段階の努力の結果。

つまり、「努力の副産物としての直感」です。

重要なのは、この瞬間を逃さないこと。

スマホのメモアプリやノートを常備し、即座に記録しましょう。

ステップ5 現実検証する(実装・評価)

最後に、思いついたアイデアを現実の制約やニーズに照らして検証します。

システムズエンジニアでいえば、実装段階のテストやユーザーフィードバックに相当します。

ヤングはここでこう締めくくります。

「アイデアは実現されて初めて価値を持つ。」

つまり、創造のゴールは「形にすること」なのです。

システムズエンジニアが学ぶべき「創造の構造」

ヤングの理論は「システム思考」そのものである

ヤングは、アイデアを「既存要素の新しい組み合わせ」と定義しました。

これはまさにシステム思考の根本原理と一致します。

エンジニアが新しいアーキテクチャを設計する時、彼らは常に「要素 × 関係性」の最適な組み合わせを探しています。

つまり、創造とは設計行為そのものです。

なぜエンジニアは「アイデアの職人」になれるのか

エンジニアリングの現場では、「創造=革新的な設計」と捉えがちです。

しかし本質は違います。

創造とは「既存知識の新しい接続」。

つまり、誰もが訓練で創造力を伸ばせる

ヤングのプロセスは、エンジニアにとって「再現可能な発想筋トレ」なのです。

Pareto・Ackoffに見る「発想の科学」とその実践

ヤングは、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートの分類を引用しました。

人間には「保守的なレントティエ(rentiers)」と「変化を求める投機家(speculators)」がいる。

後者だけが新しい組み合わせを見出せると。

Russell Ackoff(システム科学者)も次のように述べています:

私たちは「間違った問題を正確に解く」ことによって失敗する。

つまり、文脈を広く理解することが創造の前提

これがヤングの提唱する「General information」の本質です。

現場で使える!「アイデア生成テンプレート」と事例集

ここからは、実際にヤングの理論を現場で使うための具体ツールです。

すぐ使える「アイデア生成ワークシート」

  • 課題を定義する → 例:「顧客対応プロセスを自動化する」
  • Specific情報を洗い出す → システム要件・制約・現行フロー
  • General情報を追加する → 他業界の事例・心理学的知見・新技術動向
  • 組み合わせて仮説を作る → 「チャットボット×CRM連携」など
  • 寝かせて翌日再検討 → 直感で「しっくりくる」案を選定

実際の活用例1:要件定義会議のブレイクスルー

ある開発チームでは、要件定義が行き詰まっていました。

ヤングの手法を使って「情報収集→熟考→放置→ひらめき→検証」を試した結果、他部署のデータを組み合わせる発想が生まれ、設計効率が25%改善しました。

実際の活用例2:新機能設計のアイデア出し

プロダクト開発で「行き詰まったとき」に、General情報として「心理学・ユーザー行動」を学習。

その結果、「感情ベースのUIアラート」という新提案が採用されました。

実際の活用例3:チーム発想ミーティングへの応用

ヤング式をチームブレストに導入。

5ステップのうち「寝かせる」フェーズを1日挟むことで、質の高い提案数が2倍になりました。

今日からできる「ヤング式アイデア術」3つの習慣

1. 常に「素材」を集める(情報のカレイドスコープ化)

どんな会議でも「この情報はどこで使えるか?」と考える癖をつけましょう。

雑多な知識こそ、アイデアの原石です。

2. 無理に考えず「寝かせる時間」を確保する

寝る前・シャワー・散歩など「思考を止める時間」を意識的に作る。

脳の無意識が勝手にアイデアを練り上げてくれます。

3. 思いつきを「試作→検証」で磨く習慣を持つ

思いついた瞬間に完璧を求めず、仮説検証サイクルを回すことが創造の精度を高めます。

システム開発と同じく、「小さく作って早く試す」が鍵。

まとめ|創造性は「天才の才能」ではなく「設計できる技術」

ジェームス・W・ヤングの5ステップは、「偶然のひらめき」を「再現できる技術」に変えるためのフレームワークです。

創造力=情報 × 組み合わせ × 習慣化

もしあなたがエンジニアや企画職なら、今日からこの5ステップをチームに導入してみてください。

発想の質もスピードも、驚くほど変わるはずです。

💬 読者へのメッセージ

創造とは、特別な才能ではなく「再現できる行動設計」です。

ヤングの5ステップを自分の「思考システム」に組み込み、「ひらめきをデザインできる人」になりましょう。

  • この記事を書いた人

九十九史恩

キーを叩いていないときは、都会や田舎の風景を探検しています。

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